大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)5710号 判決

原告

大同布帛株式会社

右代表者代表取締役

岡本七郎

右訴訟代理人弁護士

和田隆二郎

井深泰夫

植田裕

菰田優

被告

右代表者法務大臣

谷川和穂

右指定代理人

笠井勝彦

外三名

被告

大阪府

右代表者知事

岸昌

右指定代理人

和田一仁

外三名

被告

大阪市

右代表者市長

西尾正也

右指定代理人

増本泰士

新野辺康一

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

和久井孝太郎

小沼文和

被告

福岡県

右代表者知事

奥田八二

右指定代理人

松尾義晴

外四名

被告

福岡市

右代表者市長

桑原敬一

右指定代理人

大森邦明

外五名

被告

鳥取県

右代表者知事

西尾邑次

被告

倉吉市

右代表者市長

牧田実夫

被告

鹿児島県

右代表者知事

鎌田要人

被告

鹿屋市

右代表者市長

蒲牟田喜之助

被告

三重県

右代表者知事

田川亮三

右五名訴訟代理人弁護士

土井廣

被告

名張市

右代表者市長

永岡茂之

右訴訟代理人弁護士

中坊公平

藤本清

谷澤忠彦

島田和俊

飯田和宏

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告国は、原告に対し、金五二四二万九八一三円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え(主位的請求)。

2  被告国は、原告に対し、金三三九八万五四七三円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え(予備的請求)。

3  被告大阪府、同大阪市、同東京都、同福岡県、同福岡市、同鳥取県、同倉吉市、同鹿児島県、同鹿屋市、同三重県、同名張市は、原告に対し、それぞれ別表1の各自の合計欄記載の各金員及び右各金員に対する昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告ら

主文同旨

2  被告国、同東京都、同福岡県、同福岡市

原告勝訴判決に仮執行宣言が付される場合には仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、婦人・子供用下着、寝室着等の製造販売を営む内国法人である。

2  粉飾決算

原告は、昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの事業年度(以下「昭和五三年四月期」という。以後の事業年度についてもこれにならった呼称を用いる。)から、粉飾決算をするようになった。

3  税金の納付

原告は、被告らに対し、別表1記載のとおりの昭和五三年四月期及び昭和五四年四月期(以下「本件係争各期」という。)の各法人税及び別表2(但し、大阪市に対する昭和五四年四月期の市民税欄及び合計額欄に一三二万六八九〇円とあるのを一四一万七〇八〇円に、福岡県に対する昭和五四年四月期の都府県民税欄に四万四七七〇円とあるのを四万七八〇〇円に、同期の合計額欄に二八万七五三〇円とあるのを二九万五六〇円に、福岡市に対する昭和五四年四月期の市民税欄及び合計額欄に一〇万四六九〇円とあるのを一一万一七九〇円に、それぞれ訂正する。以下、右訂正を経た別表2を「訂正後の別表2」という。)記載のとおりの本件係争各期の各地方税(都府県民税、事業税、市民税。但し、都府県民税、市民税については均等割額を控除した。)をその納付期限までに、あるいは遅くとも右期限から一年以内にはそれぞれ納付した。

なお、昭和五三年四月期から昭和六一年四月期までの原告の法人税は別表3記載のとおりである。

4  仮装経理と反対仕訳による経理

原告は、主として、在庫、売掛金を実際より増やす等の方法で粉飾を行い、その翌事業年度の期首に、前事業年度に仮装した経理金額(以下、事実を仮装して経理することを「仮装経理」といい、仮装経理をしたことにより生じる金額を「仮装経理金額」という。)を帳簿上反対仕訳した。

昭和五三年四月期から昭和五九年四月期までの仮装経理金額累計額、反対仕訳金額、申告所得金額、正当所得金額についての事業年度別内訳は、別表4記載(但し、反対仕訳金額は、修正経理金額欄の記載)のとおりであり、同各期の反対仕訳による経理の詳細は、別表5記載のとおりである。

5  確定した決算における経理と確定申告

右反対仕訳を含む経理は、いずれも取締役会の議決を経て、株主総会の承認を得、原告は、これに基づき、確定申告を行った。

6  税務署長の更正処分をなすべき義務について

(一) 仮装経理に基づく過大申告の場合につき、法人税法(以下「法」という。)一二九条二項は、「税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、その内国法人が当該事業年度後の各事業年度の確定した決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出するまでの間は、更正しないことができる。」と規定して、右の期間につき、税務署長の更正処分の義務を解除しているが、法人が、「確定した決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出」した以上、税務署長は、原則どおり右過大申告に係る課税標準等を更正する義務を負うことになる。

(二) ところで、右規定の「修正の経理」(以下、この意味で「修正の経理」という。)は、反対仕訳を意味する。すなわち、右規定の修正の経理については、法令上なんらの定義も設けられていないし、国税庁長官もこれにつき、解釈通達を発遣していないので、右修正の経理は簿記会計学からの借用概念であると判断すべきであるところ、簿記会計学上、修正の経理とは、反対仕訳しか考えられないからである。

そうすると、本件係争各期を含む前記4の仮装経理金額については、いずれも反対仕訳がなされ、右各反対仕訳に基づく経理は確定した決算を経ているから、確定した決算において修正の経理がなされたものといえる。

したがって、税務署長は、原告の本件係争各期の所得金額等につき更正処分をする義務を負う。

(三) 仮に、前期末と当期末の仮装経理金額残高を比較して修正の経理の有無を判定するとしても、昭和五七年四月期の確定申告の際には、次のとおり、修正の経理があったものである。

すなわち、原告は、仮装経理金額につき翌期の期首に反対仕訳をし、さらにその期末になっても粉飾を継続する必要があるときには、改めて仮装経理金額を計上していた(一般に「洗替」と称される方法である。)が、別表4記載のとおり昭和五七年四月期の確定申告に当たって、初めて仮装経理金額の累計額を前年度より六〇八九万二四五二円減額させることができ、昭和五八年四月期の確定申告に当たってはさらに四一八四万四九一〇円を減額させることができた。したがって、仮に、前期末と当期末の架空取引残額を比較して修正の経理の有無を判断するという前記見解に立つとしても、昭和五七年四月期の確定申告の時点においては、修正の経理がなされていることとなり、税務署長は、右確定申告以降は、本件係争各期につき更正処分をする義務を負うことになる。

7  税務署長の違法行為と過失

(一) 税金の過大申告がなされた場合、納税者がこの返還を求めるためには、税務署長に対し、国税通則法(以下「通則法」という。)二三条の更正の請求を行うことになるが、法人税の粉飾決算に係る過大申告については、前記6(一)のとおり、法一二九条二項により「確定決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出する」ことが求められており、この確定申告書を提出することは過大納税分の税額の還付を求めることになる点では、通則法による更正の請求と同じ機能を持つことになる。したがって、税務署長が、右修正の経理を経た確定決算に基づく確定申告書の提出を受けたにもかかわらず、これを放置し、更正処分の除斥期間を徒過してしまい、過大納付税金の還付ができなくなった場合、単に被告国が不当利得をしたというにとどまらず、税務署長が更正処分をしなかったことが違法となるというべきである。

本件においては、原告が、阿倍野税務署長に対し、前記のとおり修正の経理を含んだ法人税確定申告書を提出しているにもかかわらず、課税当局は、原告の本件係争各期の各法人税について、なんら適切な指示あるいは処分をせず、更正処分を行うについての期間の制限(通則法七〇条二項、一項)を失念して、漫然とこれを徒過したため、本件係争各期の各法人税についての更正処分を行うことが不可能となったのであり、税務署長の右義務の懈怠は違法である。

(二) また、課税当局は、昭和五六年八月、原告に対し、昭和五六年四月期の税務調査を行った際、原告から各粉飾及び反対仕訳の経理のすべての事実の開示を受けており、昭和五七年九月の税務調査では、仮装経理金額の累計額が昭和五六年四月期に比較して前記のとおり減少したことにつき報告を受けたのであるから、税務署長には、右(一)の義務の懈怠につき過失がある。

8  不当利得

仮に、税務署長が更正処分をしなかったことに違法ないし過失がないとしても、本件は、仮装経理による過大申告があった場合で、修正の経理がなされ、これに基づく確定申告があり、更正処分をする十分な時間的余裕があったのに、除斥期間の経過により減額更正処分をすることができなくなったのである。このような事例では、更正処分があったときに生じる制約と同じ制約の下で、還付請求権に相当する不当利得返還請求権の行使を認めるべきである。

9  原告の被った損害あるいは損失

別表3記載の各年度の申告法人税額から明らかなように、原告は、本件係争各期の法人税について更正処分がなされていれば、納付した法人税額及び地方税額(但し、均等割分を控除した分)の還付ないし控除を受けられたはずであり、右税額相当の損害ないし損失を被ったというべきである。また、その還付ないし控除は、法七〇条、一三四条の二により、昭和五八年四月期の法人税申告期限である昭和五八年六月三〇日までには、終了していたはずであるから、原告は、不当利得返還請求権については、右の日までには行使することができたものである。

10  よって、原告は、被告国に対し、主位的に、国家賠償請求権に基づき、別表1の総計欄記載の五二四二万九八一三円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、不当利得返還請求権に基づき、同表の被告国に対応する合計欄記載の三三九八万五四七三円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告大阪府、同大阪市、同東京都、同福岡県、同福岡市、同鳥取県、同倉吉市、同鹿児島県、同鹿屋市、同三重県、同名張市(以下「被告大阪府ら一一名」という。)に対し、不当利得返還請求権に基づき、それぞれ同表の右各被告に対応する合計欄記載の各金員及び右各金員に対する昭和五八年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告国

(一) 請求原因1、2の事実は認める。

(二) 同3の事実のうち、原告が被告国に対し別表1記載の本件係争各期の各法人税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したこと、昭和五三年四月期から昭和六一年四月期までの原告の法人税額が別表3記載のとおりであることは認め、その余の事実は不知。

(三) 同4の事実のうち、原告が前事業年度に仮装した経理金額を翌事業年度の期首に反対仕訳したこと、仮装経理金額累計額、申告所得金額が別表4記載のとおりであること、反対仕訳金額、仮装仕訳金額、増加仮装経理金額の事業年度別内訳が別表5記載のとおりであることは認め、その余の事実は不知。

(四) 同5の事実は否認する。原告会社においては、粉飾決算の事実を知っていたのは、役員四名だけであったのであるから、主張の経理が取締役会の議決を経て株主総会の承認を得たとの主張は認められない。

(五) 同6(一)の事実のうち、法一二九条二項の規定については認めるが、主張は争う。同6(二)の主張は争う。同6(三)の事実中、原告が、昭和五七年四月期の確定申告に当たって、仮装経理金額の累計額を前年度より六〇八九万二四五二円減少させることができたこと、昭和五八年四月期の確定申告に当たっては、さらに四一八四万四九一〇円を減少させたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(六) 同7(一)の事実は否認し、主張は争う。同7(二)の事実は否認し、主張は争う。税務署長に原告の仮装経理に基づく過大申告が判明したのは、原告が粉飾及びその後の経理を開示したからではなく、税務調査による。

(七) 同8の事実及び主張は争う。原告が修正の経理に基づく確定申告をしなかったために除斥期間の経過により減額更正処分をすることができなくなったのである。

(八) 同9の事実のうち、仮に本件係争各期の法人税について更正処分がなされていれば、更正処分の時期によっては昭和五八年四月期の法人税申告期限である昭和五八年六月三〇日までに、仮装経理に基づく過大申告の場合の減額更正に伴う過大法人税額の控除が終了していたことがありうることは認め、その余の主張は争う。

2  被告大阪府

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告大阪府に対する本件係争各期の各地方税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したことを認める。

(四) 同4、5の事実は不知。

(五) 同6の事実のうち、原告が昭和五七年四月期の確定申告を行ったことは認め、その余の事実は不知。

(六) 同8、9の事実及び主張は争う。

3  被告大阪市

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告大阪市に対する本件係争各期の各地方税をその納付期限内もしくはそれから一年以内に納付したことは認める。

(四) 同4ないし6の事実は不知。

(五) 同8、9の事実及び主張は争う。

4  被告東京都

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告東京都に対する本件係争各期の各地方税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したことは認める。

(四) 同4、5の事実は不知。

(五) 同6の事実のうち、原告が昭和五七年四月期の確定申告の行ったことは認め、その余の事実は不知。

(六) 同8、9の事実及び主張は争う。

5  被告福岡県

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告福岡県に対する本件係争各期の各地方税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したことは認める。

(四) 同4、5の事実は不知。

(五) 同6の事実のうち、原告が昭和五七年四月期の確定申告を行ったことは認め、その余の事実は不知。

(六) 同8、9の事実及び主張は争う。

6  被告福岡市

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告福岡市に対する本件係争各期の各地方税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したことは認める。

(四) 同4、5の事実は不知。

(五) 同6の事実のうち、原告が昭和五七年四月期の確定申告を行ったことは認め、その余の事実は不知。

(六) 同8、9の事実及び主張は争う。

7  被告鳥取県同倉吉市、同鹿児島県、同鹿屋市、同三重県(以下「被告鳥取県ら五名」という。)

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告鳥取県ら五名に対する本件係争各期の各地方税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したことは認める。

(四) 同4ないし6の事実は不知。

(五) 同8、9の事実及び主張は争う。

8  被告名張市

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は不知。

(三) 同3の事実のうち、原告が訂正後の別表2記載の被告名張市に対する昭和五三年四月期の地方税及び昭和五四年四月期の地方税のうち五六万九五〇円をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したことは認めるが、昭和五四年四月期についての原告の主張額五六万三三八〇円との差額二四三〇円については否認する。

(四) 同4ないし6の事実は不知。

(五) 同8、9の事実及び主張は争う。

三  被告国の主張

1  税務署長は、仮装経理に基づく過大申告があった場合には、その後の事業年度の「確定した決算」において当該事実に係る「修正の経理」をし、かつ、当該決算に基づく確定申告の提出を受けるまでは更正をしないことができることとされている(法一二九条二項)。同項は、粉飾決算を行った納税者に対しては、これを是正するための厳格な要件を充足しなければ、税務署長は減額更正をしないことができるとすることにより、納税者に一種の行政上の制裁(不利益)を与え、これにより粉飾決算の防止を目指すものである。本件では、原告は、次のとおり、右「確定した決算」における「修正の経理」をしていないから、税務署長に更正義務は存在しない。

(一) 「確定した決算」とは、株主総会において承認を得た決算、すなわち会社の意思表示として、本来の財務諸表において粉飾を修正することを意味する。粉飾決算は、通常一部の役員等が株主等にその事実を知らせないで行うものであるところ、法は減額更正を行うための第一の要件として、株主総会における確定した決算での修正により、粉飾の事実が一般に明らかにされることを要求しているのである。

(二) そして、修正の経理とは、その仮装経理をした事業年度後の事業年度の確定した決算において、「特別損失」または「前期損益修正損」(前期以前の損失を当期において計上する場合に、損益計算書に表示された勘定科目)の勘定科目で修正することをいう。すなわち、法二二条四項には、当該事業年度の収益の額及び原価、費用、損失の額は別段の定めのあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがって計算する旨規定し、右、「一般に公正妥当な会計処理の基準」とは、客観的な規範性をもつ公正妥当な会計処理基準を意味し、企業会計原則や商法がその中心をなすところ、過年度に係る損益の修正は、当期の営業活動や財務活動ではないから、右企業会計原則(損益計算書原則六特別損益・同注解注12特別損益項目について・株式会社の貸借対照表、損益計算書及び附属明細書に関する規則四二条特別損益の部)によれば、特別損益項目の前期損益修正においてなされることになるのである。

なお、その修正した事業年度の法人税の確定申告書については、その修正の経理をした部分の利益を減少させて企業利益が表示されるので、その修正額は、申告調整(修正の経理により財務諸表に表示されている損失は、修正年度の損失ではないから、確定申告をする段階において、申告書上で当期の損金に算入しないものとして調整すること。)をして提出することになる。

(三) 原告は、反対仕訳をしたことが修正の経理であると主張するが、原告の行ったような、架空の利益を計上した仕訳について、単に翌事業年度に逆の仕訳(逆の仕訳自体も修正事業年度の取引事実ではないから誤りであり、前記のとおり「前期損益修正損」というように仕訳するのが当然である。)をする方法では、決算書(財務諸表)上粉飾を修正した事実やその勘定科目は全く明らかでなく、結果的に、決算上いずれかの勘定科目に修正が含まれているに過ぎない。また、洗替の方法で一旦反対仕訳を行って、また同様に仮装経理を行うのであれば、決算としては全く修正されていないといわざるをえない。

そして、修正したという経理の結果のみが計上損益の部に掲げられた数字に含まれるだけでは、株主総会に決算をはかったとしても、株主には全く粉飾の事実がわからないのであり、これが承認されたとしても実質を伴わない形式だけの確定した決算に過ぎず、法一二九条二項の要件を充たさない。

(四) 仮装経理金額の一部についてのみ修正の経理がなされた場合は、以下の理由により未だ減額更正すべき場合にはあたらないと解すべきである。

仮装経理金額の一部についてのみ修正の経理がなされた場合には、その一部についてのみ減額更正を行うと解すると、数期にわたり行われてきた仮装経理のうちどの部分が修正されたのか明らかとはならないし、一部修正の都度減額更正を行うと考えることは、課税関係を著しく不明瞭ならしめるから採用できない。したがって、減額更正をするときには、仮装経理金額の全額について更正すべきこととなる。そして、修正とはもともと「よくないところを直して正しくすること」であるから、一部が修正されたにとどまるのでは未だ修正の経理が行われたとはいえず、仮装経理金額の全額またはこれと同視しうる金額の修正が行われて初めて修正の経理に該当すると考えられる。

本件では、仮に、仮装経理金額残高の前期末から当期末への減少額が修正の経理にあたるとしても昭和五八年四月期以前の仮装経理金額残高の減少額は、昭和五六年四月期末の残高に比し、全額またはこれと同視しうるような修正の経理がなされたとは認められないから、減額更正すべきこととはならない。

2(一)  原告が納付した本件係争各期の法人税の租税債権については、原告の納税申告により適法に確定しており、更正の請求等に基づき法の定める手続に従がって減額更正されるまでは、不当利得返還請求権の発生する余地はない。

(二)  また、仮に、原告の本件係争各期の納税申告の記載内容に錯誤があったとしても、このような場合には税法上の是正措置請求によらなければならず、これをしなかったために税法上の救済が受けられないことになったからといって、さらに、不当利得返還等により別途の請求はできない。通則法五六条の過誤納金に関する規定は、納付された国税に関し民法の不当利得の特則を定めたものであり、過誤納金についての民法の不当利得の規定の適用は排除される。

(三)  そして、過誤納金返還請求権は、民法七〇三条の不当利得返還請求権と性格を同じくするものであるが、その消滅時効については、民法一六七条の規定が排除され、専ら通則法七四条が適用される結果、原告の過誤納金に係る返還請求権は、原告が本訴を提起した昭和六二年には既に納付のあった日から五年を経過していたため、時効により消滅していたものである。

四  被告大阪府ら一一名の主張

被告大阪府ら一一名が原告から収納した本件係争各期の各地方税は、原告の納税申告または更正処分に基づき収納したものであり、法律上の原因を有する。原告が、右各税の還付を受けられなくなったのは、前記三の被告国の主張1のとおり、原告が確定した決算における修正の経理に基づく確定申告をしなかったためである。

また、仮に原告が過誤納金返還請求権を有していたとしても、これが時効により消滅していることは、前記三の被告国の主張2(三)のとおりである。

五  被告らの主張に対する原告の反論

1(一)  「確定した決算」とは、株主総会で承認を得た決算であり、修正の経理に基づく会計処理がなされていれば、これが「確定した決算」の中に含まれるのは当然である。被告らは、粉飾の事実が一般に明らかにされることを要する旨主張するが、次の理由により失当である。

(1) 法七四条は、確定した決算に基づき確定申告をしなければならないとしているが、被告らの右主張のようなことまでは規定していないから、課税上の法律要件を明確にして疑義のないようにしようとする租税法律主義の精神からすれば、被告らの右主張のような解釈は取り得ない。

(2) 脱税、租税回避の多くの事実が多くの法人に見られるが、これらの株主総会において、「当社の決算書は脱税をしています。」という報告をした例はなく、税金を払わない者に求めないものを、税金を余分に払っている者に求めるのは、税務の現状からは無理な解釈である。立法当時、粉飾事実の修正経理については、法務省から「決算書上明瞭に粉飾であることが判明するような文言により表示する必要がある。」旨の主張がなされたが、税務の現状により採用されなかったことにも留意しなければならない。

(二)  被告らは、修正の経理は「特別損失」または「前期損益修正損」という形で修正することを要する旨主張するが、右の修正の経理の方法と原告が行った経理の方法とを比較した場合、その違いは、仮装経理の金額を単に当該勘定科目で処理して二期通算での修正を行うか、「特別損失」または「前期損益修正」という勘定科目により二期通算での修正を行うかの差に過ぎない。そして、実質を重んじる税務において、結果が同一であるにもかかわらず、単なる表示方法の差だけで取扱を異にするのは、税務上の他の取扱との比較において整合性を欠くし、この点が重要なことであれば、当然政令または通達によって公示されていなければならないのであり、被告らの右主張は失当である。

(三)  被告らは、仮装経理金額の一部についてのみの修正の経理が行われた場合は、未だ更正すべき場合にはあたらない旨主張するが、次の理由により失当である。

(1) 法一二九条二項にいう「事実」とは、例えば、複数の架空の売掛金を計上して仮装経理をした場合には、個々の架空の売掛金を指すのであって、これらを集計した仮装経理金額の期末残高を指すのではない。仮装経理金額は、個々の事実の積重ねの結果に過ぎず、これらが前記「事実」に相当するわけではない。そして、個々の架空の売掛金に対応する税金の還付だけを求めようと、これらを合わせた分の架空の売掛金に対応する税金の還付を求めようと納税者の自由であり、法はこれを制約していない。

(2) また、前期末と当期末の架空取引残高を比較して修正の経理の有無を判断するという立場に立つとしても、課税庁内部においては、一部修正の経理という考え方が採用されており、「その場合、いずれの期の架空取引に係る修正とみるかは、原則として古い期から順次充当するのが相当である。」との指導がされている。本件においては、原告の昭和五七年四月期末の右残高は一億五七〇一万七八七九円、昭和五六年四月期末のそれは二億一七九一万三三一円であって、その減少額は、六〇八九万二四五二円に上っており(別表5参照)、全体の約二八パーセント、昭和五三年四月期の右残高の約七〇パーセントに及んでおり相当額について修正がなされているから、課税庁は、これを知った昭和五七年九月ころの時点では減額更正処分をすべきであった。

2  不当利得返還請求について

所得のないところに課税はなく、納付した過大税額は、不当利得を構成する。申告納税制度の下では、申告行為に納税義務の確定の効果を一応付与するが、納税者が一定の手続を踏むことによって、原則として納税者に右不当利得の返還を認めるのである。納税者において、更正処分の除斥期間経過前に、法律の要求する不当利得返還の手続の要件を満たした以上、その後たまたま減額更正処分が遅れ、除斥期間との関係で減額更正処分を行うことができなくなったとしても、直ちにその不利益を納税者に帰することは著しく正義に反する。そこで、法一二九条二項に即して更正処分がなされた場合と同様に取扱い、不当利得の返還を認めるべきである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一1  原告が、婦人・子供用下着、寝室着等の製造販売を営む内国法人であることは当事者間に争いがない。

2  原告が、昭和五三年四月期から粉飾決算をするようになったこと、原告が別表1記載の本件係争各期の各法人税をその納付期限もしくはそれから一年以内に納付したこと、昭和五三年四月期から昭和六一年四月期までの原告の法人税額が別表3記載のとおりであること、原告が前事業年度に仮装した経理金額を翌事業年度の期首に反対仕訳したこと、仮装経理金額累計額、申告所得金額が別表4記載のとおりであること、反対仕訳金額、仮装仕訳金額、増加仮装経理金額の事業年度別内訳が別表5記載のとおりであること、原告が昭和五七年四月期の確定申告に当たって、仮装経理金額の累計額を前年度より六〇八九万二四五二円減少させることができたこと、昭和五八年四月期の確定申告に当たっては、さらに四一八四万四九一〇円を減少させたこと、仮に本件係争各期の法人税について更正処分がなされていれば、更正処分の時期によっては昭和五八年四月期の法人税申告期限である昭和五八年六月三〇日までに仮装経理に基づく過大申告の場合の減額更正に伴う過大法人税額の控除が終了していたことがありうることは、原告と被告国との間で争いがなく、被告大阪府ら一一名との間においては、〈証拠〉を総合すれば、右事実(被告大阪府、同東京都、同福岡県、同福岡市との間では、原告が昭和五七年四月期の確定申告を行ったことは争いがない。)を認めることができる。

3  または、原告が、被告大阪府ら一一名に対し、訂正後の別表2記載の本件係争各期の右各被告に対する各地方税(但し、被告名張市に対する昭和五四年四月期の市民税については五六万九五〇円の限度において)をそれぞれ納付期限もしくはそれから一年以内にそれぞれ納付したことは、原告との右各被告との間で争いがなく、被告国との間においては、右2の事実及び弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

4  右2の事実に、〈証拠〉を総合すれば、本件係争各期の各法人税及び各地方税は、原告の納税申告または更正処分に基づき納付されたこと、原告が昭和五三年四月期から昭和五九年四月期までの各事業年度の決算について株主総会の承認を得、これに基づき確定申告を行っていたことが認められる。

二1  法一二九条二項は、内国法人が事実を仮装して経理したところに基づき過大申告をした場合につき、「税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、その内国法人が当該事業年度後の各事業年度の確定した決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができる」旨定めているところ、原告は、右「確定した決算」において「修正の経理」をした旨主張し、被告らは、原告の行った経理はこれに該当しない旨主張するので、この点につき検討する。

2  法一二九条二項に規定する「確定した決算」とは、株主総会において承認を得た決算のことであるから、修正の経理は、企業が決算に際して作成すべき財務諸表(貸借対照表、損益計算書等)上なされるべきこととなる。

ところで、同条項の修正の経理については、法は、その定義につき、別段の定めを設けていないが、これを考えるに当っては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがってなされるべきである(法二二条四項参照)。また、一般には、法人税について過大申告がなされた場合、税務署長は、正しい税額を納付させるため、更生処分を行い、過大に納付されている税額は還付加算金を付して還付することとされているところ、法一二九条二項は、仮装経理に基づく過大申告の場合には、税務署長は、確定した決算において修正の経理がなされ、これに基づく確定申告書が提出されるまで更正をしないことができることとし、また、減額更正処分がなされた後の還付方法についても、法七〇条一項、一三四条の二において、全額を一時に還付することなく、更正の日の属する事業年度前一年間の各事業年度の法人税額相当額だけを還付し、残額は爾後五年間に納付することとなる各事業年度の法人税額から税額控除することとされている。右各規定の趣旨は、自ら粉飾決算をして意識的に多く納めた税金を、還付加算金を付して一時に還付するということは、数年間の税金を一時に還付するという点において財政を不安定にするおそれがあるのみならず、申告納税制度の本旨からみても好ましくないこと、また、粉飾決算をなくして真実の経理公開を確保しようという要請とも相容れないものであることから、粉飾決算をした法人が自ら仮装経理状態を是正するまでは減額更正を留保し、また、還付についても通常の場合より不利に扱うことにするとともに、その是正方法も一定の厳格な方法によって既往事業年度の経理修正した事実を明確に表示することを義務づけ、その負担により、財政の安定をはかると同時に粉飾決算を未然に防止することをも目的とするものと解される。したがって、法一二九条二項の修正の経理の意味内容を解釈するに際しても、右のような法の趣旨を踏まえてなされる心要がある。

右に述べたところにしたがって、法一二九条二項の修正の経理の意義を考えると過年度の仮装経理は、当期の営業活動や財務活動ではないから、右仮装経理による損益の修正は、企業会計原則(損益計算書原則六特別損益・注解注12特別損益項目について)に則れば、特別損益項目中で前期損益修正損等と計上してなされるべきことになる。また、右のような解釈は、企業会計は、企業の財務状態及び経営成績に関して真実の報告を提供しなければならず、財務諸表によって、利害関係者に必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならないとの企業会計原則の一般原則(真実性の原則及び明瞭性の原則)に合致し、さらには、法がいう一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にも合致するというべきであり、また、粉飾決算を防止し併せて真実の経理の公開を確保しようとする前記法の趣旨・目的とも合致するというべきである。したがって、修正の経理とは、財務諸表(損益計算書)の特別損益の項目において、前期損益修正損等と計上して仮装経理の結果を修正して、その修正した事実を明示することであると解すべきである。

これを本件についてみると、前記一2の事実、〈証拠〉を総合すると、原告は、本件係争各期(及びその後の事業年度)の仮装経理金額につき、その翌事業年度の期首に、帳簿上反対仕訳をする処理をしたが、その後の事業年度の決算の際の財務諸表において、特別損益の項目で前記損益修正損等と計上するなどして修正の事実を明示したことはないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、修正の経理に関する前記解釈を前提とすれば、本件係争各期の仮装経理金額につき、修正の経理がなされたことはないというほかはない。

3 原告は、本件係争各期の仮装経理金額については、それぞれの翌事業年度の期首に反対仕訳がなされており、これによって修正の経理がなされたものである旨主張する。しかしながら、前記一の事実に〈証拠〉を総合すれば、原告は、期首に反対仕訳を行った事業年度の期末になっても粉飾を継続する必要があるときは、改めて仮装経理金額を計上する方法によって仮装経理を継続してきたものであり、原告がその期首に前事業年度の仮装経理金額につき反対仕訳を行った昭和五四年四月期及び昭和五五年四月期の期末には、改めて前事業年度期末の仮装経理金額累計額を上回る金額の仮装経理がなされていることが認められるから、原告は、期首に反対仕訳をした右各事業年度においても、粉飾の項目及び金額について変更を加えたのみで、前事業年度から継続して、しかも仮装経理金額累計額を前事業年度よりも拡大して前事業年度からの粉飾を継続していたというべきであり、決算においては、前事業年度の仮装経理の修正を全くなしえてないというほかはない。原告は、法一二九条二項にいう「事実」とは、例えば、架空の売掛金を計上する方法による仮装経理の場合であれば、個々の架空の売掛金を指すのであって、仮装経理金額期末残高を指すのではないとして、一旦反対仕訳がされたことをもって修正の経理にあたる旨主張するが、前記2のとおり、同項は確定した決算において仮装した事実に係る修正の経理を要求しており、修正の経理の有無は株主総会で承認を受けた財務諸表において判断されることとなるから、一旦帳簿上反対仕訳がなされても期末に再度仮装経理が行われている場合には、当該事業年度の決算としては、結局修正の経理はなされていないと見ざるをえない。右原告の主張によれば、仮装経理をした法人が前事業年度からの粉飾を、洗替により項目を変えるだけで拡大して継続している場合にも、税務署長が減額更正をすべきこととなって、まず粉飾をした法人自らがその修正をすべきことを要求した同項の趣旨に著しく反する結果となり、原告の右主張は採用できない。

4  原告は、昭和五七年四月期の確定申告において、仮装経理金額を前年度より六〇八九万二四五二円減額させているから、前期末と当期末の架空取引残額を比較して修正の経理の有無を判断するという立場に立つとしても、同期においては修正の経理に基づく確定申告がなされている旨主張する。

しかし、昭和五七年四月期ないし昭和五八年四月期の決算における仮装経理金額がその前の事業年度の決算の仮装経理金額と比較して減額しているとしても、原告が、昭和五七年四月期ないし昭和五八年四月期の決算における財務諸表において、本件係争各期及びその後の事業年度の仮装経理金額につき特別損益の項目において前期損益修正損などと計上して修正の事実を明示していないことは、前記2で認定したとおりであるから、修正の経理に関する前記解釈によれば、これのみでは、修正の経理があったということはできない。また、原告の右各期の経理処理をみると前事業年度に仮装した経理金額を単に翌事業年度の期首に帳簿上反対仕訳をし、その帳簿に基づいて、財務諸表を作成したものであるから、原告が株主総会で承認を得た損益計算書においては、当期に生じた損益と前期以前に生じた損益とが区別されておらず、すべて当期の損益として表示されていることとなるばかりか、売掛金の架空計上による仮装経理の場合を例にとれば、前期に架空計上した売掛金を当期に反対仕訳をした結果、当期の売掛金については過小計上されていることとなり、虚偽の記載さえ含まれていることとなるのであり、右のような経理処理に基づく決算でも株主総会の承認を得れば、減額更正処分がなされ、過大納税額についての還付、控除が受けられるとすると、粉飾決算をした法人が過大に納付した税金を取り戻すためにさらに虚偽の内容を含み利害関係者に企業の財政状態及び営業成績について誤解を与えるおそれのある財務諸表を作成することを容認奨励する結果にもなりかねず、そうなると、法一二九条二項の前記趣旨は著しく躙蹂される結果となるのであって、原告の主張する事実があるとしても、到底、修正の経理があったとは言えない。

5  なお、原告は、粉飾決算を行った法人に特別損失または前期損失修正という形での修正を要求し、粉飾決算の事実が明らかになるような形式で決算書類の承認を求めることは、税務の現状からは無理である旨主張する。しかし、粉飾決算を行った役員自らこれを明らかにすることは自らを窮地に陥らせる結果につながるため事実上困難な面があることは否定できないとしても、それは粉飾決算を行った役員自身の責に帰すべきものであって、正確な財務諸表を作成して利害関係者に企業の財政状態や営業成績について正確な情報を提供することによる利益を制約してまで、粉飾決算を行った役員の利益を保護する理由はないのであり、かえって、粉飾決算をすることによって過大に納付した税金の還付を受けるためには厳格な要件を充たすことを必要とすることによって粉飾決算の防止をはかろうとする法一二九条二項の趣旨目的をも考慮すれば、これを無理な要件ということはできない。また、たとえ、単に反対仕訳を行い、その結果が含まれた財務諸表を作成することが、粉飾決算の事後処理として会計実務の慣行となっているとしても、それが公正妥当な会計処理の基準に従った経理の方法といえないことは前記4のとおりであり、不公正な会計慣行を基準として法の解釈を行うことは本末転倒であることからすれば、原告の右主張は失当というべきである。

さらに、原告は、簿記会計学上、修正の経理といえば反対仕訳しか考えられない旨、また、特別損失または前期損益修正という勘定科目で処理する方法と原告が行った仮装経理金額を単に当該勘定科目で処理する方法とは、結果が同一であり、実質を重んじる税務において区別すべきでない旨主張するが、修正の経理の方法としては特別損益の項目において前期損益修正損等と計上して修正の事実を明示すべきこと及び原告の行った方法が弊害を持つ不公正な方法であることは前記2、4のとおりであり、さらに、課税の面から粉飾決算を防止し真実の経理公開を実現することを目的とした法一二九条二項の解釈において、結果の同一のみを重視することもできないのであって、原告の主張は採用できない。

6  なお、原告は、課税当局が原告の仮装経理の状況を知りながら、原告の本件係争各期の法人税につき、なんら適切な指示または処分をしなかった旨を主張し、〈証拠〉によれば、課税当局の調査担当者であった村田主査は、昭和五六年八月の税務調査において、原告が粉飾決算を行っていることを知るに至り、粉飾を解消するように指導したが、その修正の方法については指導しなかったこと、その後、課税当局は、昭和五七年九月には、原告の仮装経理金額の累計額が減少したことを知ったが、修正の経理の方法について指導したことはなかったことが認められる。しかし、証人竹本貢の証言によれば、原告は、自らの判断で、単に反対仕訳をしてその結果を財務諸表に含ませるという経理処理をしたのであって、課税当局の指導に基づき、または課税当局の承認を得たうえで、右経理処理をしたのではないことが認められ、そうすると、課税当局の右行為が、原告に対する関係で不法行為となるとは到底いえず、また、右行為によって、原告が納付した過大納税額を返還しないことが、右納税額が原告の申告等に基づき納付されたものであるにもかかわらず、なお著しく正義に反する結果になるということも到底できない。

7  以上で検討したところによれば、原告は、法一二九条二項の要求する確定した決算における修正の経理を経ていなかったため、税務署長には減額更正義務が存在しなかったというべきであるから、右義務の存在を前提とする原告の被告国に対する国家賠償請求は理由がない。また、原告の本件係争各期の各法人税及び各地方税は、原告の申告または更正処分に基づき納付されたものであり、その還付を受けられなくなったのも、専ら原告自身が法一二九条二項の定める修正の経理を行わなかったことによるものであるから、被告らが右の各税金を保有することには法律上の原因が存するというべきであり、原告の被告らに対する不当利得返還請求も理由がない。

三よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐々木洋一 裁判官朝日貴浩 裁判長裁判官山本矩夫は転補のため署名捺印できない。裁判官佐々木洋一)

別表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例